横浜美術館『ルノワールとパリに恋した12人の画家たち』

2019.12.20 Fri.

adieuの記念すべき初ライブ『adieu secret show case [unveiling]』から一夜明けて、向かったのは、横浜美術館

 

…のつもりだったが、何せTOKYOは不慣れゆえ、JRとメトロの区別さえついてない。同じホームに複数の線が乗り入れているとか本当に意味がわからない。なんでそんなことするんだ、もっとわかりやすく作ってくれ。

 

普通に電車が動いてる時でさえ、東京で1人で電車に乗る時は何もわからない不安から動悸と目眩が酷くなって体調を崩す。本当に成人男性のメンタルとは思えない。

それに加え、この日は電車が大幅に遅れていた。乗換案内アプリが提示する時間に、指定された電車に乗ることでしか移動する術を持たない私は、もう何も信じられなくなった。絶望感に苛まれながら電車に乗っていたので、正直あまり記憶が無い。

 

フォロワーさん達からDMで励ましの言葉をいただくという介護を受けながら(その節は本当にすみません、ありがとうございました)みなとみらい駅に到着し、駅に着いてからも軽く迷子になり、息も絶え絶え辿り着いた横浜美術館

 

開催中の展示会のタイトルは、『ルノワールとパリに恋した12人の画家たち』。パリのオランジュリー美術館のコレクション146点の中から69点の作品を展示している、横浜美術館開館30周年を記念して開催された展示会だ。

 

普段はあまり美術館に通う人間ではなく、オーケストラのコンサートなど、音楽鑑賞に偏った生活をしているが、今回はそんなことを言って足を遠ざけている場合ではない。音声ガイドを萌音ちゃんが務めているのだ。

推しから絵画や画家の解説を受けながら教養を深めることができる、ずっと行きたかった展示会にようやく来れた。耳が溶けるほど最高だというのは前評判を聞いて知っていたので、期待に胸を躍らせながら560円を払って音声ガイド機をレンタルした。

 

プロローグの自己紹介から最高に耳馴染みの良い優しい声が耳元で囁く。口元が緩み、膝は崩れ落ちそうになり、側から見れば不審者まっしぐらな中、展示スペースへ足を踏み入れた。

 

1番はじめに展示されていたのは、アンドレ・ドラン作『ポール・ギヨームの肖像』。ポール・ギヨームという人物を、恥ずかしながら私は全く知らなかったのだが、フランスの有名な画商であり、美術コレクターであったそうだ。

今回展示されている作品を描いた13人の画家は、このポール・ギヨームとなんらかの形でつながりを持ち、個人契約を結んだりギヨームに大切にされてきた人たちであることを、展示を鑑賞しながら理解した。

 

今回の展示会を観覧するにあたって、私は、その作者が当時どんな状況にあって、どんな思想で作品を描き、その思想がどんな形で絵に表れているのか、ということをできる限り理解しようと考えていた。

 

美術展は、作品単体で展示されることは少ないように思う。ほぼ必ず、作者の紹介、作品の解説文、そして音声ガイドなど、様々な補足説明があり、鑑賞する者の理解を促してくれる。

今回の展示会のそうした補足説明は、先述の、鑑賞する上での私のコンセプトを充分に満たしてくれた。

 

画家の紹介は、画家が絵と出会うきっかけやギヨームと出会うきっかけ、ほかの画家との出会いがもたらした思想の変化が丁寧に書かれており、時代とともに思想が変化し、作風にも変化が起きているのがよくわかるように、展示の仕方も工夫されていると感じた。

たとえば、ピカソの絵はこれまでテレビや雑誌で見たことくらいはあったが、キュビズムという考え方については今までよく知らず、今回の展示と音声ガイドのおかげで初めてピカソの強烈なデフォルメの絵と自分の距離が少し縮まったように思えた。また、ピカソ1920年代を境に新古典主義に傾倒したときの作品もいくつか展示されており、1人の画家の人生を垣間見ることができた。

 

音声ガイドでは、萌音ちゃんが「ここに注目してみてください」と見るポイントを示してくれたり、「あちらからピアノの音が聴こえてきます」と誘われた先にはルノワールのあの有名な『ピアノを弾く少女たち』があるという、巧みな誘導も素晴らしかった。

 

『ピアノを弾く少女たち』の解説を読んで、ドビュッシーがルロイ家の少女たちがピアノに向かう姿から曲の着想を得たという話を知り、音楽も美術も、何も高尚なものじゃなく、人が人のために作って献呈するものだというシンプルなプレゼント感覚で作品が作られていたんだな、ということを感じた。

 

人のために作られた作品には、鑑賞する者にその当時の作者の気持ちや時代背景を想起させるエネルギーがあり、ひとつの絵で時間も空間も飛び越えていける、ファンタジーのような体験ができた。

 

音声ガイドに話を戻すと、福間洸太朗さんのピアノも好きだ。選曲も素敵だった。

プーランクのノヴェレッテは大好きな作品の1つで、優しいC-Durの響きが安心感をもたらしてくれる。

ピアノ曲ではないけど、『牝鹿』が聴けたのが意外だった。作品自体は知っていたけど、ローランサンの絵と結びつきがあったとは知らず、先ほどのドビュッシーの話もそうだが、絵画を見にきて音楽の知識まで持って帰れるとは思っていなかったので、すごく贅沢な気分になった。

『牝鹿』、主観ですが、とても可愛い曲なので、興味を持たれた方は聴いてみてください。

(Les bitches FP.36

https://music.apple.com/jp/album/poulenc-stabat-mater-les-biches/599985243 )

 

絵画を見るときには画家の思想を知るべき、と今回の鑑賞を通して学んだが、それは芸術鑑賞に留まる話ではない。

現代において人と接するときにも、相手の思想を汲み取り、寄り添いあって対話を重ねたり、同じ物事に取り組んでいかねば、という自分の生き方を見直すきっかけにもなった。

自分のペースでゆっくり見て回れるからこそ、考えをあらゆるところに巡らせたりできるのが美術館の良いところだなと思った。同じ展示会でも何回も足を運ぶことで、作品に対する理解を深めたり、自分について考えることもできるだろう。

今回の展示会はスケジュールの都合で再度訪れることが叶わなそうなのが残念だが、良い体験ができて、とても満足だった。

ああ、でも音声ガイドがまた聴きたいなぁ。